2024年1月11日(木)ノーリフティングケア中間報告会
去る1月11日に、当社ノーリフティングケアチームを対象とした基本研修を実施いたしました。
その際の研修レポートをご紹介いたします。
実施日時:2024年1月11日(木) 19:00~20:30
実施場所:ピースクルーズ本社9階研修室
報告者:ノーリフティングケアチーム(取締役・介護福祉士5名・理学療法士・看護師)
Ⅰ.報告会内容
今回は、これまでの研修を基にピースクルーズ内で取り組んできた内容の報告会となった。その内容は、そもそもピースクルーズでノーリフティングケアを取り入れるきっかけとなった経緯から、現状取り組んできた結果までの発表である。今までのレポートでは研修内容は記したが、そもそもの経緯や内部の取り組みについてはあまり記していなかったと皇ので、今回は発表内容をなぞる形での報告レポートにしようと思う。
1.ノーリフティングケア導入の経緯
ピースクルーズでノーリフティングケアを導入しようと考えた理由としては、ピースクルーズが目指すケアと合致したことが挙げられる。
ピースクルーズでは、「ていねい」な声掛け・「まじめ」で正確な技術提供・「思いやり」の眼差しという3つの要素をもって、質の高いケアを提供できることを目指し、取り組んできた。これを実現するためには介護者に「余裕」がなければならない。しかし、現実には介護者の肉体的・精神的負担はかなりのもので、とても余裕をもつなんて状況ではない。そんななか、「持ち上げ」・「抱え上げ」・「引き上げ」のあるケアをなくし、福祉用具を積極的に活用して腰痛などのような負担をなくすという、ノーリフティングケアに出会う。これによって、介護者・利用者様双方にとって楽になり、余裕を持つことができるようになるという要素から、ピースクルーズが目指すケアの実践につなげられるのではないかと考えられ、導入に踏み切ったのである。
2.取り組み開始~状況把握まで
2023年2月に、ピースクルーズ職員4名が社内講習を受講、スライディングボード・シート・グローブの使用方法を学び、福祉用具の重要性を学ぶ。4月には、会長・本部長・施設長が高知県に向かい、そこで開催されたノーリフティングケア講習を受講し、ノーリフティングケアとはどのようなものであるかを学ぶ。
以上を基として、5月末に会長より、ピースクルーズにおいて「ノーリフティングケアをスタンダード化する」という宣言があり、ノーリフティングケア推進委員会が設立された。6月からノーリフティングケアのマネジメント研修が開始され、推進委員会メンバーが受講する。
7月には、現状把握のため社内アンケートを実施、ノーリフティングケアの主目的の1つが腰痛予防・排除であるため、腰痛に関わるものに絞ったものではあったが、かなりの職員が腰痛を感じていることが判明する。そこで、どのような業務において感じているかの調査を実施し、腰痛発生のリスクが高いものから優先的に対処していくこととなった。
3.取り組んだ内容
調査の結果、ベッドから車椅子への移乗介助が最も多く、次いで浴室清掃、トイレ清掃と続くものとなった。そこで、今回はこの3課題に対して取り組むこととなった。
①移乗介助
移乗介助においては、介護用リフトの導入を試してみることとなった。全介助での介助が必要な利用者様1名を選出し、導入前との変化を確かめてみることとした。
導入前は全介助で行うこともあって腰の負担がかなり大きく、その分余分な力が入ってしまうために利用者様も辛そうな表情をされ、痛みの訴えや移乗拒否のような発言も見られた。では、導入後はどうかというと、使用方法に慣れていないために時間はかかってしまうものの、力がほぼ必要ないために負担がかなり軽減されたことが分かった。利用者様からの痛みの訴えは無くなっている。介護者と利用者様のどちらも初めてのモノであったため、まだ少し戸惑いはあるものの、慣れてくれば楽になることは間違いないであろうとの結果であった。
導入後にもアンケート調査を実施し、リフトを使用している職員からはおおむね負担軽減の声があった。また、今回のケースの方以外にもリフトやスライディングボード・シートなどの福祉用具を導入したほうが良いと思うか調査を行い、半数以上の職員から導入すべきであるという回答を得られた。今後、これらに対しても検討・対応していく予定である。
②浴室清掃
浴室清掃においては、特に浴槽を清掃する際に負担があるという意見が多かった。これまでの清掃では、手持ちのスポンジも使用し、中腰姿勢で掃除するというよくある方法を取っていた。しかし、この方法では浴槽の深さもあって上半身をかなり鎮める必要もあり、腰どころか全身に負担がかかることとなってしまう。そこで今回は、ごく単純な対処法ではあるが柄付きのブラシ(デッキブラシのようなもの)を導入し、経過を観察したのちにアンケートにて調査を行った。
調査結果としては、多くの職員からは身体的負担が軽減されたとの回答を得ることができた。中腰で行う必要がなくなったことが、大きな要因であろうと思われる。職員側から他の対応案が何点か挙げられたため、これについても検討・検証を行っていく予定である。
③トイレ清掃
トイレ掃除においては、上記②と重なる部分もあるが、やはり中腰で清掃する場面が多いために負担となっているという回答が多かった。また、便器の後ろ奥の方など、床に膝をつかないと届かないケースがあり、「トイレの床に膝をつく」ということに対する不快感などからくる、精神的な負担もあることが判明する。掃除道具そのものに問題はなさそうであったため、今回は道具を更新するというよりは、身体の使い方を変更することで軽減することができるのではないかという視点で検証し、調査を行った。
身体の使い方を変えるといっても、介護に携わる者にとっては簡単な方法で、足を広げて「支持基底面」を広く取り、しゃがむ際は「自分のかかとに座る」ようにしゃがんで行うというものである。調査の結果、たったこれだけで身体的負担が軽減されたという結果が得られた。また、膝を床につくことについても、しゃがんで支持基底面を広く取ることで前後の可動域が確保され、膝をつく必要がなくなったという結果となった。職員側からは、別の解決案も得られたため、今後これについても検討を進めていくこととなる。
今回は以上の①~③について検証を行い、身体的負担はおおむね改善傾向にあるという結果となった。アンケート調査では他の業務についても負担があるという意見もあったため、これらについても今後検討・検証を重ね、より楽に働けるよう活動を続けていくこととなるだろう。
4.今後の展開
今回の取り組みにより、身体的負担をある程度軽減することはできたといえる結果を得ることはできた。ノーリフティングケアを実践し始めたという今の段階においては、まずますの滑り出しといえるだろうか。
今後についてだが、ピースクルーズ全職員がノーリフティングケアを意識的に実践できるよう、教育体制を確立したうえでその必要性を伝え続けることになる。そのためにも、年間を通しての計画を立案し、今回のような調査の流れを習慣づけていくことが必要であろう。「とりあえず今が楽になったからよい」ではなく、今回のような取り組みの流れを続けることが、スタンダード化には必要である。習慣として「あたりまえ」レベルにまでもっていくことで、より楽な現場環境を整備することができるし、余裕を持つことができるようになるだろう。
Ⅱ.感想
2023年5月のノーリフティングケアスタンダード化宣言から報告レポートを作成してきた。ピースクルーズとしては0からといってよい段階からのスタートであったため、確か5月や6月のマネジメント研修1回目あたりでは、どこまで進めることができるのか、どんな成果を上げることができるのかと、かなり不安であったことを記していたと思う。なにせ、我々にとっては未知の世界を進んでいくという旅の始まりである。研修というある程度の地図はあるものの、ピースクルーズ独自の航路を作り出し、開拓していく必要がある。しかもそれは、ものによっては長く続けてきて「あたりまえ」になっていた方法をぶち壊し、新たなものを浸透させていくという相当に難しいミッションである。かつて江戸末期にあった黒船襲来時のペリーらも、日本相手にこのような心境だっただろうか。もっとも、当時の西側諸国の拡大をみるに、案外ノリノリで不安などなかったかもしれないが…。
余談はさておき、約1年弱という期間を経て、ここまでの成果物を提出することとなった。報告会では弊社会長も聞いておられ、「ここまで進めることができるとは思っていなかった」と仰ってくださった。つまりは、開始当初の想像を超えた成果物を送ることができたということだろう。大きな不安や、なんだかんだ収まっていないコロナ情勢などの中でもがいてきたかいがあったといえよう。また、普段の業務で多忙な中、推進委員会に協力くださった全職員にも、多大なる感謝を申し上げる。今回の成果は、彼らの協力あってこその成果なのだから。
さて、今回の報告会をもって、大きな壁への対応例はできた。しかし、上記Ⅰ-4でも記したが、「今が楽ならそれでよい」といって足を止めては意味がない。なにより、今回は意見が多かった3課題に着目して検証したに過ぎず、ほかの課題も多くあるし、検証後のアンケート調査でも新たな課題が提示されている。これらを段階的につぶしていき、どのような業務においても余裕をもってあたれることこそ、ピースクルーズが目指すケアの実現に必須なのだから。
(作成者:介護福祉士 柏原庸平)