ノーリフティングの取り組み
新着情報

去る10月20日に、当社ノーリフティングケアチームを対象とした基本研修を実施いたしました。
その際の研修レポートをご紹介いたします。

実施日時:2023年10月20日(金) 18:00~20:00
実施場所:ピースクルーズ本社9階研修室
参加者:ノーリフティングケアチーム(取締役・介護福祉士4名・理学療法士・看護師)

Ⅰ.研修概要

今回の研修は、これまでの研修の振り返りのような内容となった。
主には、これまでに整えてきた体制の確認・見直し、マニュアル作成、課題の確認である。
そこで今回は、ノーリフティングケア実施のための体制づくりにおいて、どのようなものがあり、どのような要素が重要であったかを振り返っていこうと思う。

1.リスクマネジメントの体制づくり

リスクマネジメントは、ノーリフティングケアを実施する上では極めて重要なものとなる。というのも、ノーリフティングケアには、腰痛予防を通して利用者・介助者双方の安心安全を確保することが目的の1つにある。この意味においてはノーリフティングケアの全ての取り組みがリスクマネジメントであるといえ、リスクマネジメント≒ノーリフティングケアといっても過言ではないかもしれない。

そんなリスクマネジメントの体制を整えるための手順は以下のとおりである。
(1)現場から腰痛に繋がるリスクを拾ってもらえる方法を見直す。
(2)リスクを見積もり、ハイリスクから改善策を検討・実施する。
(3)実施結果を評価・見直し・記録して、PDCAサイクルを回す。
以上(1)〜(3)の流れをマニュアルとして作成する。

腰痛リスクの要因には、業務内容・対象者の状態・職員の状態・環境状況の4つがあり、これらが絡み合って腰痛が発生する。上記の体制を整え、安全水準が高い状況へ更新することが重要である。もちろん、体制を整えるのと同時に、職員の教育も実施し、よく理解しておくことも必要である。

2.健康管理の体制づくり

ノーリフティングケアにおいては、健康管理とは主に腰痛関係の部分を対象とする。これは、ノーリフティングケアが腰痛予防をもって、職場から腰痛を取り除くことを目指すものであることに起因する。

これを実現するための必要な健康管理の取り組みは以下のとおりである。
(1)年間の腰痛調査の日程を決め、調査を実施する。
(2)調査結果を管理表に記録し、腰痛保持者と腰痛予備群をピックアップする。
(3)腰痛保持者・腰痛予備群への対応策を、高リスク者から順に決定し、実施する。
(4)腰痛調査を再度行い、結果を基に対応策を見直す。
(5)(1)~(4)の流れをマニュアルとして作成する。

以上のうち、(4)での見直しについては、対応策の内容や実施状況だけでなく、職員が決められた方法を守っているかまで確認する必要がある。決められた方法を徹底し、正確なデータを得ることで、より良い対応策を策定することも可能となるだろう。

また、腰痛関係を主とするとはいったが、精神面など他の健康管理の調査も忘れずに実施していくことも必要である。職員の状況を正確に把握していくことが、安心安全な職場環境の実現の第一歩となる。

3.アセスメント・プランニングの体制づくり

アセスメント・プランニングにおいては、ノーリフティングケアの視点を取り入れたものを作成する必要がある。福祉用具が現場にあるならば、これを利用した福祉用具ケアプランを作成することとなるが、もし現場に福祉用具がない場合には、2通りのプランを作成することとなる。

その2通りのプランとは、以下のとおりである。
(1)現状可能な範囲でのノーリフティングケアプラン
(2)利用者様・介助職員双方にとって最適な福祉用具を使用したノーリフティングケアプラン

(1)については、福祉用具を導入するまでのプランであり、決定次第すぐに実践していくことになる。これによって、福祉用具がなくとも可能な範囲で腰痛予防を実施していくことが重要である。その間に②のプランを作成し、福祉用具が導入でき次第切り替えていくこととなる。
なお、プラン作成の際には、「福祉用具を使用すること」や、どのタイミングで使用するかなどの「介助方法」を記載することも必要となる。これは、ノーリフティングケアの目的である、利用者様・介護職の安全を守るためでもあるが、別の側面もある。それは、ケアプランがある種の利用者様と介護職との契約書のようなものであり、これに従って介助を行なわなければならないという点を利用して、福祉用具の使用をルール化するというものである。これによって、無理な力任せの介助をより無くしていくことに効果が期待できる。

4.教育の体制づくり

ノーリフティングケアを導入するといっても、適切なケアを実施するためには関係者全員がノーリフティングケアについて正確に理解しておく必要がある。そのためには、教育体制の整備は必須事項であり、極めて重要な要素となる。

では、教育の体制づくりに必要な要素にはどのようなものがあるのか。そのポイントは以下の5点である。
(1)教育内容が決定していて、かつ、伝えられる職員が必要人数そろっているか。
(2)進捗状況を管理する方法が決まっているか。
(3)年間を通しての教育計画が立案できているか。
(4)ノーリフティングケアの理解のみならず、実際に行動できる仕組みになっているか。
(5)以上(1)〜(4)の流れや、取り決めた内容についてマニュアルが作成されているか。

(1)のうち、教育内容については、内容によって一部対象者が異なる。
ノーリフティングケアの目的や・必要性や、自己管理としての腰痛予防策、リスクマネジメントの内容や個々の役割の理解については、全職員が理解しておく必要がある。こちらは、研修や理解度チェックを通して実施していく。
他方、介助方法の基本的な動きや、福祉用具の使用方法については、身体介助に直接かかわる職員が理解する必要がある。そのために、集団研修やOJTを通してケア方法を伝達し、実技チェックも行う。
どちらにせよ、一度実施して理解できていればよいというものではなく、理解度の確認も含めて定期的な研修等を実施していくことが重要である。

(2)については、職員1人1人を個別に、計画通りに実施できているかの進捗状況を管理していく。この時、表を作成しておくと管理がしやすくなる。表を作成した場合の管理方法としては、研修終了時に理解度チェックを実施し、問題なければ印をつける。理解度が低いと判断された場合には、再研修・再チェックを実施するとよい。

(3)については、委員会メンバーで教育計画・職員へ伝達する内容や日程といったものの、年間の計画を立案・決定し、周知することとなる。

(4)については、知識のみでは実際のサービスでケアを行うことは難しいため、体験やOJTなどの実地指導の仕組みを作っていくことになる。時間を別途確保する必要があるだろうが、より安全かつ確実な実践を行うためには必要な要素である。

以上の流れを(5)にてマニュアル化することでノーリフティングケアを続けていける体制を整え、また、体制の見直し等をいつでも行えるようにしておくとよい。

5.福祉用具の導入・管理の体制づくり

ノーリフティングケアを実施していく中で福祉用具の活用するケアも行っていくことになると思われるが、福祉用具の導入体制や適切な管理体制を整えていくことは必須事項である。ここでは、そのために必用な要素について振り返る。

福祉用具の導入・管理体制を整えるための要素としては、以下の5点となる。
(1)福祉用具が管理表によってまとめられている。
(2)福祉用具の点検のチェックポイントが決まっている。
(3)福祉用具の管理方法が決まっている。
(4)プランニングにおいて理想となるケアの方法を検討する仕組みがある。
(5)福祉用具の管理・導入に関してのマニュアルを作成する。

(1)については、事業所内にある福祉用具の最新情報を把握し、一覧表にまとめておくとよい。この場合は、商品名・使用期間・どのような状態か・どこで使っているかなどを記載する。当然だが、作成後に新たな用具が導入された場合には、追加していくこととなる。初作成時にはかなり大変な作業となるが、一度作ってしまえばあとは追加・変更を行うだけとなり、一覧にすれば一目で把握できるようになるため、作成する価値は大いにあると考えられる。

(2)については、各用具を点検する際のチェックすべきポイントをまとめることになる。こうすることで、点検時に問題が生じた場合には使用の中止や使用時の注意点などを検討・共有・周知することが容易となる。

(3)については、どこに用具を置けば効率よく使用できるか、どこに機器を配置するかといった、管理する方法を決定しておくことになる。こうすると、用具・機器類の管理がしやすくなり、万一の紛失等の問題をなくすことが期待できる。また、新人職員が入職した際にも、すぐに把握できる効果も期待できる。

(4)は上記3のアセスメント・プランニングと似ているが、あちらは実際に行う最善のケア方法を計画するのに対して、こちらは「理想的なケア」を合わせて記載するする部分が異なる。「理想的なケア」を決定することにより、各利用者様のケアにあたって何がいくつ無いか・または足りないかが抽出される。これを基に、現在の環境と比較して優先的に導入すべき用具が決定できるのである。
導入計画を検討する際は、「どの利用者様に何を導入するか・いつ導入するか・福祉用具の体験やデモンストレーションはいつか・導入対象者の周知・導入後の配置や管理の方法」の5点がポイントとなる。

上記(1)〜(4)をマニュアルとして作成しておくと、スムーズな導入やより確実な管理が可能となるだろう。

Ⅱ.研修後の感想

今回で、定期的なマネジメント研修は一旦終了となる。それもあって、全体的な振り返りが主な内容となった。

どの要素も欠けてはならないきわめて重要な要素である。リスクマネジメントの意識ができていなければ、職場内での危険性を排除していくことができないし、職員の健康管理を怠ってしまってはノーリフティングケアの実施うんぬんどころではなくなる。アセスメントやケアプランがなければケアそのものが実施できないし、教育が行き届いていなければせっかくのノーリフティングケアが無意味なものとなってしまう。福祉用具の管理を怠れば、いざ使用するとなっても安全な使用ができないどころか、使用そのものができなくなっている可能性もある。これらの考え方はなにもノーリフティングケアだけでなく、通常のケアを行っていく中でも必要な要素であるため、これらを学べた今回の研修は大変貴重なものであった。このようなレポート内で恐縮ではあるが、研修に関わられた関係者の皆様方にお礼申し上げたいと思う。

さて、研修は終わったが、これらを実践してみてどのような成果をあげられたかを発表する中間報告会が待っている。ご期待に添えられた結果を残せるかはわからないが、一定の成果示せるよう、普段の業務と合わせて励んでいこうと思う所存である。

(作成者:介護福祉士 柏原庸平)