ノーリフティングの取り組み
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去る4月7日に、ナチュラルハートフルケアネットワーク主催のシーティング研修が行われました。
その際の研修レポートをご紹介いたします。

実施日時:2024年4月7日(日) 9:30~16:30
実施場所:ピースクルーズ本社9階研修室
参加者:ピースクルーズ介護士4名・他事業所介護士3名

 

Ⅰ.研修内容

本研修は、ナチュラルハートフルケアネットワーク主催のものである。その内容は、主にベッド上での臥位姿勢を対象とした「ポジショニング」の基礎と、椅子や車椅子での座位姿勢を対象とした「シーティング」の基礎という2項目についてである。これらは実際の現場において、利用者様に安全で快適な生活を送っていただくために重要な要素となる。本来この研修は2日に分けて行われるところを、今回は1日で理解できるように要点をまとめたものでご教授いただいた。

 

1. ポジショニング

(1)目的と必要性

ポジショニングの目的は、利用者様の活動に合わせた快適な姿勢をとるか、提供することにある。とりわけ、ベッド上で臥位をとっていただいた際は、「快眠・休息のサポート、健康維持、心身や自律神経の安定、呼吸を楽にできるようにする、圧が分散して寝苦しさや痛みがないこと、拘縮や褥瘡の予防」といった目的がある。これらの目的達成することが、安全で快適な臥位に通じることとなる。

 

適切なポジショニングが必要とはいうが、ではなぜ必要なのか。

私たち人間の身体は不良姿勢を長時間強いられた場合、身体のこわばりが発生したり、一部に強い圧が掛かることによる痛み・床ずれが発生したりするなどの二次障害が発生する。もし、この体制をとってしまうようなケアを継続してしまうと、拘縮が発生し、呼吸・循環・消化機能などのような「生きていくために必要な活動」にも悪影響を及ぼしてしまう。この状態になってしまうと、利用者様はとてもつらい状態になってしまう当然だが、介護する側にとってもとてもしづらい状態となってしまう。

利用者様の健康的な生活を守るためには、直接かかわる時間以外も含めた24時間で姿勢や動作のサポートを考える必要がある。そのためには、不良姿勢の放置や力任せに抱え上げたり引きずったりするケアは絶対に無くさなければならない。休息・睡眠・活動時とそれぞれに応じた姿勢を提供できるようにすることが必要である。

 

(2)姿勢と身体の働きとの関係

不良姿勢が生きるために必要な機能に悪影響を与えるといったが、いったいどのような影響があるのかというと、主には以下の3点がある。

⓵姿勢と呼吸の関係
⓶姿勢と循環の関係
⓷姿勢と消化・排泄の関係

 

⓵について、呼吸が生命活動に必須なのはいうまでもないことだが、正常に呼吸を行うためには安楽な姿勢を保つことが重要である。不適切な体位やストレスが原因で、呼吸による体内のガス交換機能に障害を引き起こす可能性がある。呼吸を妨害する姿勢や安楽な姿勢を把握し、アセスメント時点で課題を見つけ、姿勢を整えることが必要である。

 

⓶については、不良姿勢を継続すると、体重が体の一部分に集中して血液循環などに悪影響を及ぼし、痛み・浮腫・褥瘡などの原因にもなりうる。また、力任せの介助を行った場合にも筋緊張が亢進して循環不良を発生してしまう。これを予防する為には、早期に発見して適切な姿勢をとれるよう対応する事が重要である。

 

⓷について、食べる・消化する・老廃物をだすという一連のプロセスにおいても、不良姿勢は悪影響を及ぼす。年齢を重ねるとともに排泄機能が低下していくため、不良姿勢のままでいると体内の運動機能に影響が出てしまい、より出にくくなる懸念が出てくる。また、食事中も不良姿勢では咀嚼や嚥下がやりにくくなり、窒息などの事故にもつながってしまう。このような事故の発生を防ぐ為にも、正しい姿勢を整えて維持する事が大事である。

 

(3)臥位姿勢の仕組みと整え方

適切な臥位姿勢に整えるためには、そもそもの身体の仕組みを知る必要がある。人間の身体は適切な臥位姿勢を取っていた場合、首や膝などのような関節部分には体重が乗らないようになっている。身体を動かす際には関節から動き始めるため、体重が乗ってしまっていると動き出すことが困難になる為である。しかし、臥位を適切に取れていなかった場合、間接に負担がかかってしまい動き出すことが出来ないばかりか、関節が固くなって次第に動けなくなってしまう可能性もある。

 

では、どのように整えればよいのだろうか。

まず、臥位になった時点で身体に傾きやねじれがあった場合には、それを整える必要がある。傾いたままでは体重が偏ってしまい局所的な負荷がかかってしまうし、ねじれたままでは拘縮や痛みの原因になるからである。
次に、全身の圧抜きを行う。これは、単純に圧を抜くだけではなく、身体全体に負荷を分散させながら姿勢を整える目的がある。この時、スライディンググローブを使用すると、負担なく圧抜きを行なうことができる。圧を抜く手順だが、下半身→上半身→上肢→頭部の順で行なう。圧を抜いた後は、少し上から抑えると残った圧を分散させることができる。再度全身を観察して傾きやねじれを整える。

以上の手順が、ベッド上などで臥位をとった際の整え方となる。

 

(4)ポジショニング

姿勢を整えた際に、拘縮や変形の影響でどうしても体の一部が浮いてしまう場合がある。これでは、どれだけ圧抜き等を行なったとしても浮いた箇所の延長部分に負担がかかってしまう。これに対してどのような方法をとればよいかだが、クッションなどを用いるという方法がある。

まず、身体全体を観察し、体重がどの流れでどこにかかっているかを確認する。そして、どこを支えれば負担を取り除けるかを考える。これによって決定した身体の箇所にクッションを敷き、身体を支えられる部分を作って重さを乗せて圧抜き・分散を行なう。こうすることで、適切な姿勢を整えることが可能となる。

クッションを使用する際は、浮いている部分にただ差し込むのではなく、本来体重を支える箇所の中枢部にしっかりと差し込むことが重要である。これによって、各種体幹に体重が流れるのを防ぐことができる。また、浮いている部分を支えるからと言って、関節部分を支えるような入れ方をしてしまうと、身体の動きや循環機能を阻害して姿勢の不安定化や拘縮の悪化を招いてしまうため注意が必要である。

 

2. シーティング

(1) 目的と重要性

シーティングとは、座位姿勢におけるサポートのことを指す。その目的は、利用者様の健康を守り、活動的な生活をつくることにある。どういうことかといえば、痛みなく楽に呼吸ができ、動きやすく、活動しやすい姿勢を提供するということである。そのためにどのようなことをするかといえば、車いすや椅子などの選定を行ない、体幹を支えたうえで動けるような姿勢のサポートを行なうことで、各種身体機能の働きを保障できるよう整えていくのである。

シーティングの必要性だが、これは上記1のポジショニングも必要性とほぼ同じであるため詳細は割愛する。

 

(2) 姿勢と身体の働きとの関係

シーティングにおける姿勢と身体の働きとの関係だが、これも要素としてはポジショニングと同じく、⓵姿勢と呼吸の関係、⓶姿勢と循環の関係、⓷姿勢と消化・排泄の関係の3要素があげられる。関係性についてもポジショニングとほぼ同一である。

 

⓵について、不良姿勢をとった場合には胸部の下が圧迫されるため、浅い呼吸になってしまう。これが原因で呼吸によるガス交換を阻害し、障害につながってしまうのである。これに対して目指すべき姿勢は、呼吸が楽にできる姿勢であり、また深呼吸を出来るような姿勢である。

 

⓶について、不良姿勢を続けると体重が偏って痛みや浮腫・褥瘡などを発生させてしまう。後方に傾いていれば仙骨部や尾骨部に褥瘡が、下肢や下腿に体重が掛かっていなかったり長時間下腿が下垂していたりすると浮腫が発生してしまう。これらが発生していなくても、不良姿勢の下では身体の過緊張や拘縮を生む可能性が高くなる。このため、適切な座位をとって体圧を分散させることが重要となる。

 

⓷について、不良姿勢をとっていると食事の際に誤嚥や消化不良といった問題が発生したり、適切な腹圧がかからないことで排泄が困難になったりする場合もある。食事や排泄は生きていくうえで必須の機能であるため、座位をしっかりと整えることで機能不全を防がなければならない。

 

(3) 座位姿勢の仕組みと整え方

座位姿勢においても、臥位姿勢のように身体を支える場所と動き出す場所を知っておく必要がある。動き出す場所については、臥位姿勢と同じく各関節部となる。ここに体重が乗ると動きにくくなる特性も全く同一である。次に体重を支える部分だが、これは少し異なる部分がある。臥位姿勢ではほぼ全身で均等気味に支えていたため、身体の傾きやねじれ・拘縮等による局所圧に注意していた。一方の座位姿勢においては、胸部下部や臀部・大腿部や足底などに集中しやすくなる。このため、これらの部分でしっかりと身体を支えられるようにしなければ、思わぬ2次被害を与えてしまう可能性もある。

どこに注意するかだが、座る前の準備として「3直」を無くすことが重要となる。

1点目は、座面が硬い場合には直に座らないようにする。車いすのスリングシートやクッションのない椅子などのような座面が硬い部分に座ってしまうと、痛みや床ずれなどの原因となる。これを防ぐ為に、クッションなどやわらかい物で保護するのである。

2点目は、車いすに座る場合は、フットサポート使用時に裸足や靴下で直置きしないようにする。基本ではあるが、必ず靴や類似するものを履いていただかなければならない。直置きにしてしまうと足底に体重が乗りにくくなり安定せず、ケガを起こしやすくなってしまう。これを防ぐためにも、必ず履いていただくよう注意が必要である。

3点目は、滑り止めを使用する場合は直敷きをしないようにする。理由は2点目と同じで、足底に体重が乗りにくくケガにつながってしまう為である。また、1点目のように滑り止めの下が硬い座面の場合だと、体内の血液循環が悪くなり、褥瘡などの原因にもなりうる。そのため、座面のクッションに使用するのが正しい使い方となる。

 

では、不良姿勢を整える為にどうすればよいかだが、一言でいえば座り直しとなる。座り直す際は、間違っても2人がかりで前後に別れて持ち上げるような介助は行なってはならない。利用者様に余計な負担をかけてしまうし、引きずり・持ち上げ・抱え上げをする介助に該当し、安全面にも問題が出てしまうためである。正しくは、前方か後方につき、体重を体の左右どちらかに傾けながら移動させる方法となる。これならば、引きずったりすることもなく、少ない負担で座りなおすことが出来るのである。もちろん、1人では難しい場合は、2人で対応する事もあるが、前述した通り、持ち上げたり引きずったりするようなことは絶対にない様に介助する。

座りなおした後は、臥位姿勢の時のように身体の傾きやねじれがないかを確認する。

 

(4) シーティング

シーティングにおけるプロセスだが、ポジショニングと同様の流れで行う。つまり、体重の流れを確認し、どう支えて整えるかを吟味したうえでクッション等を用いて補助する。補助した状態で座位における動きに問題ないかを確かめるのである。

シーティングを行なう際に留意すべき事項が5点ある。

・座る椅子や車椅子のサイズを合わせる。
・シートのクッションは必ず使う。
・通常の椅子に座れない場合には、ティルトリクライニング機能のある物を使用する。
・背中は広く支えるようにする。
・その他調整が必要な個所は調整する。

 

サイズについて、目安とされるのは「臀部の幅+両手のひらを縦に置いた状態」である。新たに導入するときはこれを念頭に選定し、導入までに時間が掛かる場合には、クッション等を用いて合わせることになる。

シートのクッションについては、上記各項目で何度も記しているように必ず使用する。これにより、最低限の快適性と体圧の分散が見込まれ、座位も安定できると考えられる。

ティルトリクライニング機能だが、ティルトは座面が背もたれと連動して傾き、リクライニングは背もたれだけが傾く機能である。基本的にはティルト機能を使用する。

背中を広く支える際は、車いすの背張りを調整する。車いすの種類にもよるため、やり方は割愛する。また、背張りで支えきれない場合は、あとから別で取りつけるタイプも存在するため、これらを駆使して利用者様に合わせた調整をおこなう。

その他の調整については、フットプレートやアームサポート・ヘッドサポートなどの物品を調整し、より快適な座位をとっていただけるよう整えていく。

 

以上5点に留意して計画建て、実践していくというのが大きな流れとなる。

 

 Ⅱ.研修を終えての感想

今回の研修はノーリフティングの一環ではなく、独立した研修内容であった。しかしながら、講師の方を含めピースクルーズにおけるノーリフティングケア研修の流れで実施頂いたものである。この場を借りて、改めて研修開催・参加させていただけたことにお礼を申し上げる。

さて、ポジショニング・シーティングともに、介護現場では避けては通れない技術である。ここがいい加減になってしまうと、適切な介護とは程遠いものになるといっても過言ではないだろう。本研修では、スライディンググローブなどのような福祉用具を使用するという、ノーリフティングケアではおなじみの、ただ、実際の現場ではまだ浸透しきっていない物を使用するという、ある種の新しい介護の方法の紹介もあった。だが、近い将来ではこれがスタンダードになっていてもおかしくない程に有用なものであったし、スタンダードにしていかなければならないものであったと思う。

研修内では、上記1.2までの内容を踏まえて、体験会も行われた。普段やっているものと細部が異なる為、戸惑いながらの実践となったが、今振り返ってみると、難易度はものすごく高いというものでもないかもと感じている。今後の展開としては、まずこれらの技術を現場で周知するところから始まるだろうか。そして、いずれは外部にも積極的に発信していけるようになれば、介護者・利用者様の双方にとって、よりよい介護を日本全国で提供できるようになるだろうか。このような駄文ではあるが、少しでも多くの方の目に留まり、興味を持っていただけるきっかけになれば幸いである。

 

作成者:介護福祉士 柏原庸平