第3回 ノーリフティングケアマネジメント研修
去る8月22日に、当社ノーリフティングケアチームを対象とした基本研修を実施いたしました。
その際の研修レポートをご紹介いたします。
実施日時:2023年8月22日(火) 18:00~21:00
実施場所:ピースクルーズ本社9階研修室
参加者:ノーリフティングケアチーム(取締役・介護福祉士5名・理学療法士・看護師)
Ⅰ.研修概要
1.リスクマネジメントの体制づくり
・前回の研修後、リスクマネジメントについての周知・理解を進めるため、ピースクルーズ全職員を対象に理解度チェックのSTEP3を実施した。
また、勤務中にどのような腰痛リスクがあるかを洗い出すため、全職員を対象に、どのような時に痛みを感じるか、どんな業務に腰痛の危険性があると感じるかといったアンケート調査を実施した。
今回から、この結果を基にしてリスクマネジメントの体制づくりを行うこととなった。
・リスクマネジメントでの課題解決においては、PDCAサイクルを利用する。
まず、事業所で決まったリスクの共有方法に基づいて、どのような業務でリスクがあるかを報告する。
この報告を基に、委員会でリスクの優先順位をつけて解決策を検討し、決定した解決策を周知・実施することになる。
ただし、現場のリーダー等で解決できる場合や緊急性の高い内容に関しては、その場で検討・実施して結果を委員会に報告し、委員会でこの記録を管理する方法でもよい。
・1つの作業におけるリスクを見積もる際は、以下の5つの視点で判断する。
①作業姿勢:前屈、中腰、不良姿勢、腰をひねるなど、不安定な姿勢をとる作業があるかどうか。
不安定な姿勢での作業が多いほどリスクは高くなる。
②重量負荷:対象者や重量物の持ち上げなどの作業時にかかる、一人当たりの重量負荷がどれだけか。
当然だが、重ければ重いほどリスクは高くなる。
③作業頻度:腰に負担がかかる動作がどの程度あるか。1時間あたりの回数や、作業が連続で続いているかが判断基準となる。
④作業時間:同一姿勢がどれだけの時間続くような作業があるか。
デスクワークなど、同一姿勢が数十分続くような作業はリスクが高いと判断する。
⑤作業環境:作業場所の広さ、滑りやすさ、段差や障害物の有無、室温、明るさ、設備の配置が、作業を行うのに適しているかが判断の基準となる。
また、それぞれの視点において、高・中・低の3段階でリスクの高さを判断し、高リスクとなる要素の多い作業から優先的にリスク低減策を実施することとなる。
・解決策を実施した後は、その後の状況の評価を行い、改善策を検討する。
改善策を検討する際には、他の業務においても類似事例が無いかを確認しておくと、合わせて検討することが可能となる。
解決できた事例については、発生・発覚から解決までの流れを記録し、委員会にて管理する。
このような流れでリスクの改善を繰り返すことで、現場の労働安全衛生水準が向上していくことができる。
・リスクマネジメントにおける課題の記録については、リスクマネジメント管理表を作成して記録・管理していくとよい。
これは、リスクがいつ抽出され、どのような経緯で改善され、残った課題はなにか等をまとめたものであり、当該発生事例について検討・実施した内容の周知・振り返りや、類似事例発生時に対応の助けとして利用することができる。
以上のようなサイクルで課題解決にあたることになるが、そもそものリスクを抽出するにはどのような方法があるだろうか。
アンケート方式で自由に記載してもらい、そこから抽出する方法もあるが、他には
・マトリックス図:緊急性と影響度について、リスクの優先順位を委員会以外の職員にも意識してもらえる張り出し方でボードを掲示する。期限を決めて張り出しを行ってもらうとよい。
・ラウンドチェックシート:腰痛発生に関するリスクを項目化し、職員自身と委員会が○・△・×などでチェックできるシートを作成することで、各職員に周知・実施できているかを確認する。
これによって、出来ていない項目についての見直しを容易にできる。
以上のような方法がある。
いずれにせよ、各事業所に合った方法で抽出し、課題解決に対処できる体制を整えていくことが、リスクマネジメントの第一歩となる。
2.ノーリフティングケアの視点
・ノーリフティングケアにおいては、介助者・被介助者の双方に負担なく、自立支援を促す必要がある。
自立支援を行うことは介護業界では大前提とはなるものの、自立支援を重視しすぎると介助者側の負担が大きくなり、腰痛をはじめとしたリスクが高まってしまう。
そのため、「介助者の負担軽減」と「利用者様の自立支援・廃用予防」のバランスが取れた、理想的なノーリフティングケアプランの作成が必要となる。そのためには、
・ケアプランの周知~記載までの流れの確立
・身体の使い方、福祉用具の使い方等の知識共有
・組織内でのノーリフティングケアのルール化の徹底
この3点で構成された、土台となる部分の体制づくりがカギとなる。
・ノーリフティングケア視点でのプランを作成する際、福祉用具が現場にある場合には、利用者様のアセスメント情報に応じた最適な福祉用具を使用したプランを作成する。
これにより、福祉用具の使用をルールとして取り入れることができる。
福祉用具が現場にない場合は、プランを2通り立案することになる。
1つは福祉用具がない現状で、今できる範囲でノーリフティングケアの視点に立ったプランである。
こちらは、決定次第すぐに実践するべきプランとなる。
もう1つは福祉用具の導入計画のためのプランで、介助者・利用者様双方にとって最適な福祉用具を使用した、ノーリフティングケアの視点に立ったプランである。
こちらは、福祉用具・機器を導入するにあたって種類や数を決定し、導入につなげるためのプランとなる。
福祉用具が導入された後には、こちらのプランに速やかに変更して実践することになる。
3.アセスメント・プランニングの体制づくり
・ノーリフティングケア視点のケアプランを作成するとして、どのような手順を踏めばよいのだろうか。
まず、腰痛につながるリスクとなる対象者を見つけ出すことから始まる。これは、見つけ次第すぐに挙げられる方法を決めておく。
リスクを挙げる際は、誰のどのような介助なのかを具体的に記載してもらう必要がある。
また、定期的にアンケート調査を実施し、腰痛リスクの高い利用者様や業務を抽出する方法もある。
こちらの場合は、リスクの高いものを抽出し、優先順位をつけてアセスメントを実施する。
・対象者を見つけ出したら、アセスメントプランニングシートを作成する。
作成する際は、
①できる動作、できない動作
②現状行っているケア
③今ある福祉用具を確認し、ノーリフティングケアの視点で今後のケアのプラン
④理想的なケア
以上の4点を記載できるとよい。
特に④があると、導入すべき福祉用具の種類と数を確認できる。
また、作成を現場職員が担当できるとスムーズに作成できると考えられる。
・ケア方法を作成したら、その方法を周知する手段を検討、決定する。
例えば、個別で実施する方法で特に注意する必要がある点があれば、写真付きの資料などをまとめ、周知する方法がある。また、実技を通して周知していくことも有効である。
・現場においては、福祉用具があったとしても
・誰に何を使うかが確定していない
・使用する対象者が不明
・そもそも使用方法が分かっていない
などのような、様々な要因のためになかなか職員に浸透しないこともある。
誰に何を使うのかを決定(アセスメント・プランニング)し、同時に、知識と技術を共有(教育)することが必要となる。これを進めていくことで、「なるべくやる」ではなく、ルールとして「やらなければならない」体制を整えることが可能となる。
4.アセスメント・プランニングの実際
・介護現場において、福祉用具の使用例としては以下のものがある。
①ベッド上での移動:スライディングシート、グローブ、オーバルボード等
②座位・立位・移乗時:スタンディングリフト、トランスファーボード、リフト等
いずれにしても、ケアプランの中には福祉用具を使用することや介助方法を具体的に記載する必要がある。
プランを作ったとしても、福祉用具を使っていないプランだったり、使っているけど力作業が含まれていたりすると、ノーリフティングケアプランとはいえない。
5.教育の進め方
・ノーリフティングケアを進めるうえで、当然ながら教育体制を整えることは必須事項である。
教育を行う際は、職員一人ひとりが基礎知識を習得できるように行っていくことになる。
この時、研修を実施するだけではなく、習得し行動に移せることを目標とする。
研修は全職員に実施し、研修後にはその習得度を確認する必要がある。
情報を入れることで知識を変え、職員の意識を変えて行動も変え、最終的には習慣を変える。
この流れを完遂することが「教育」であり、「研修の実施」にとどまってはならない点には十分に注意しなければならないといえる。
・教育を進めるにあたって、その体制を作っていく必要がある。体制づくりにおいて必要なポイントは5つあり、
①教育内容を決定し、伝えられる職員が必要数いること
②進捗状況の管理方法が決まっていること
③年間の教育計画が立てられていること
④理解のみならず、行動できる仕組みができていること
⑤取り決めた内容がマニュアルとして記録されていること
以上のポイントを踏まえた体制を整えていくことになる。
今回である第3回目の研修では①~③までを整備することになった。
・①の内容に関しては、職員がノーリフティングケアの目的や必要性を理解し、実践できることを目標としたものになる。
この目標達成のためには、理解度チェックや実技研修を行い、定着するまで実地指導を続けることになるだろう。
伝える職員に関しては、委員会メンバーが該当することとなる。
②については、職員一人一人の進歩状況を個別に管理できる表を作成すると、計画に沿って実施できているかを確認できる。
また、できていない職員を対象に再度研修を行うなどして、真直度を統一していくことも可能となるだろう。
③は、委員会メンバーで教育計画や職員への伝達内容とその日時を含めた年間の計画を決定し、周知することになる。
この年間計画は、進捗状況に応じて内容を見直すことも重要である。
伝達する内容に関しては、分野ごとに分けて策定する。
この中で、福祉用具の使い方の分野においては、もし該当の用具がない場合にはいくつか購入しておくとよい。
購入の際は、お試し感覚で安いものを買うのではなく、何種類か用意したうえで使用感などを試した方が、導入する際により良い結果をもたらすことができるだろう。
Ⅱ.研修後の感想
まず、今回はそれぞれの内容が重要かつ濃いこともあって長くなってしまった。
自分なりに一部を付け加えたりしてまとめてみたものの、果たして理解が正しいかが今まで以上に不安である。
しかし、せっかく前回の研修から実施した調査結果などで、計画を進めるための要素が少しずつ出てきていることもあるので、なんとかついていかなければと思う次第である。
さて、今回から新しく教育分野の話が出てきた。
これまで、委員会メンバー以外の職員には、断片的にアンケート調査や理解度チェックを実施してきたに過ぎないため、改めてノーリフティングケアの理解度を高めるためには、教育計画の策定は極めて重要な役割を占めているといえるだろう。
しかし、重要であるからこそ作成にはかなりの時間を要するであろうと思われる。
教育計画の内容によって職員の習得度が左右されるといってもいい代物であろうから、熟考を重ねてなるべく最適解を見つけ出す必要があるからだ。
もちろん、時間経過とともにブラッシュアップしていくことも重要ではあるのだが、そもそも初めの土台がしっかりしている必要があることは言うまでもない。
初のプロジェクトで手探りの中、どこまでの基礎を作り上げることができるだろうか。
まだまだ体制づくりの道のりは長い。
(作成者:介護福祉士 柏原庸平)